飲食店で流れているBGM。
「店内が静かだと寂しいから」「なんとなく雰囲気が良くなるから」といった理由で音楽を流しているお店も多いのではないでしょうか。
しかし、飲食店における音楽の役割は、単なる雰囲気づくりだけではない可能性があります。
これまでの研究では、音楽と料理の組み合わせが料理の選択に影響したり、聞いている音楽によって味の感じ方や食事のペースが変化したりする可能性が報告されています。
もちろん、特定の音楽を流せば必ず料理がおいしくなったり、売上が伸びたりするわけではありません。
それでも、料理・内装・照明などと同じように、音楽も飲食店の体験を構成する一つの要素として考える価値があります。
この記事では、飲食店と音楽の関係について、実際の研究をもとに紹介します。
料理と音楽の「文化」が一致すると、料理選びが変わる?
飲食店にとって興味深い研究の一つが、料理と音楽の文化的な組み合わせについて調べた研究です。
2017年に学術誌『Food Quality and Preference』に掲載された研究
Ethnic congruence of music and food affects food selection but not liking
では、料理と文化的に一致する音楽を流すことで、その文化に関連した料理が選ばれやすくなる可能性が示されました。
重要なのは、この研究では「音楽によって料理そのものの好みが高まった」とまでは確認されなかったことです。
つまり、
「イタリア料理+イタリアらしい音楽」
「日本料理+日本らしい音楽」
のように、料理と店内音楽の世界観をそろえることは、料理をおいしくする魔法というより、お客様がその料理を認識したり選択したりする際の“文脈”に影響している可能性があるということです。
2023年にも、ドイツ・ハンガリー・イタリア・スペインの料理と音楽を組み合わせ、視線計測を用いて食品選択を調べる研究が行われています。
How do ethnically congruent music and meal drive food choices?
104人を対象としたこの研究でも、料理と文化的に関連する音楽との関係が検討されました。
飲食店で考えるなら、単に「人気の曲を流す」という考え方だけではなく、
- どの国・地域の料理なのか
- どんな世界観のお店なのか
- お客様にどんな店だと感じてほしいのか
まで含めてBGMを考える意味がありそうです。
音楽によって「味の感じ方」が変わる研究もある
さらに面白いのが、音と味覚の関係です。
この分野では**「Sonic Seasoning(ソニック・シーズニング)」**と呼ばれる研究があります。
直訳すると「音による味付け」といった意味で、音楽や音と味覚・風味を組み合わせることで、食事体験がどのように変化するかを研究する分野です。
オックスフォード大学のCharles Spenceらによるレビュー
Commercializing Sonic Seasoning in Multisensory Offline Experiential Events and Online Applications
では、Sonic Seasoningについて、音や音楽を味・風味と意図的に組み合わせる考え方として整理されています。
例えば、高い音や低い音、音楽が持つ感情的な印象などによって、甘味や苦味などの知覚が変化する可能性が研究されています。
2022年には日本の研究者を含むチームによって、
という研究も発表されています。
タイトルの通り、クラシックやジャズといった音楽と、甘味などの味覚イメージとの関係を調べた研究です。
また、2020年の実験では、チョコレートを食べる前または食べている最中に「甘味」「苦味」と関連づけられた音を聞いた場合、味覚評価に影響が見られました。
Onset timing moderates the crossmodal influence of background sound on taste perception
これらの研究を見ると、私たちが料理を味わう体験は、舌や鼻だけで完結しているわけではなく、耳から入ってくる情報も含めた複数の感覚によって構成されていることが分かります。
「好きな音楽」が食事の評価に影響する可能性も
飲食店では、「どのジャンルの音楽を流すか」だけでなく、音楽そのものから感じる感情も重要かもしれません。
2024年に発表された研究では、参加者50人にランチの料理を見せながら、
- 無音
- 好きな音楽
- 嫌いな音楽
という異なる条件で評価を行いました。
その結果、嫌いな音楽を聞いている条件ではネガティブな感情が強くなり、無音や好きな音楽の条件では料理に対する好意的な評価が高くなる傾向が報告されています。
ただし、この研究も「この曲を流せば料理がおいしくなる」という話ではありません。
むしろ重要なのは、料理を評価するときのお客様の感情状態に、周囲の音楽が関係する可能性があるという点でしょう。
飲食店のBGMは、スタッフが好きな曲を流せばいいというだけではなく、お客様がその空間でどう感じるかまで考えて選ぶ必要があります。
音楽のテンポと食事のペースにも関係がある
飲食店では、BGMのジャンルだけでなくテンポにも注目したいところです。
2020年の研究
Music to eat by: A systematic investigation of the relative importance of tempo and articulation on eating time
では、音楽のテンポなどと食事時間の関係が検討されています。
研究では、遅いテンポの音楽を聞いているときの方が、速いテンポの場合より食事に時間をかける傾向が確認されています。
さらに2024年の研究
Chew that beat! How music tempo influences eating behaviours
でも、音楽のテンポと食べる行動との関係が研究されています。
また2021年には、BGMのテンポが食品そのものの評価や購入意向に影響する可能性を調べた研究も発表されています。
Background music tempo effects on food evaluations and purchase intentions
こうした研究から、
「速い曲なら必ず回転率が上がる」
と単純に結論づけることはできません。
実際の飲食店では、混雑状況、接客、提供時間、座席、客層など多数の要素が関係するためです。
ただ、BGMのテンポと人の行動に一定の関係が示されている以上、店舗が目指す滞在体験に合わせて音楽のテンポを考えることには意味があるでしょう。
例えば、ランチタイムの回転を重視する飲食店と、コース料理をゆっくり楽しんでもらうレストランでは、同じBGMが最適とは限りません。
飲食店のBGMは「業種」だけでは決められない
ここまで研究を見ていくと、飲食店のBGMを単純に
「カフェならジャズ」
「和食なら琴」
「BARならピアノ」
と決めるだけでは不十分だと分かります。
同じ和食でも、
- 高級な寿司店
- 家族向けの寿司店
- 定食屋
- 居酒屋
- 割烹
- ラーメン店
では、お客様が求めている体験が大きく異なります。
同じカフェでも、長時間ゆっくり過ごしてもらいたい店と、テイクアウトや短時間利用が中心の店ではBGMの考え方が変わります。
つまり、飲食店のBGMは**「何屋なのか」だけではなく、「どんな店なのか」まで考えて選ぶ必要があります。**
料理との文化的な相性、テンポ、音楽から受ける感情、客層、滞在時間、時間帯。
こうした複数の要素を組み合わせることで、その店舗に合ったBGMを考えやすくなります。
BGMも「お店をつくる要素」の一つ
飲食店をつくるときには、
料理、器、照明、内装、スタッフの服装、接客、香りなど、さまざまな要素を考えます。
音楽もその一つです。
研究を見る限り、BGMは単なる「無音を埋めるための音」ではありません。
料理の選択や味覚の知覚、感情、食事のペースなどと関連する研究が存在しています。
だからこそ、
「とりあえず何か流しておく」
ではなく、
「このお店では、お客様にどんな時間を過ごしてほしいのか」
からBGMを考えてみてもいいのではないでしょうか。
Store Soundでは飲食店の業態ごとにBGMを選べます
Store Soundは、飲食店や美容室、サロンなど、店舗で利用することを想定したBGMアプリです。
飲食店といっても、すべてのお店に同じ音楽が合うわけではありません。
和食と焼肉、カフェとBARでは、お客様が求める雰囲気や過ごし方も大きく異なります。
Store Soundでは、単に「ジャズ」「ピアノ」といった音楽ジャンルから選ぶだけでなく、お店の業態からBGMを選べるようにしています。
飲食店向けには、業態ごとに専用チャンネルを用意しています。下記がその専用チャンネルです。
この記事で紹介した研究からも、音楽は単に店内の無音を埋めるだけではなく、料理の選択や味覚の知覚、感情、食事のペースなどと関係する可能性が示されています。
だからこそ、飲食店のBGMは「飲食店だからこの曲」という一括りではなく、
- どんな料理を提供しているのか
- どんなお客様が多いのか
- どのくらいの時間を過ごしてほしいのか
- お店をどんな雰囲気にしたいのか
といった、そのお店ならではの特徴から考えることが大切です。
今後Store Soundでは、和食、寿司、カフェ、居酒屋など、それぞれの業態と音楽の関係についても詳しく紹介していきます。
店舗で流す音楽を選ぶ際は、「自分が好きな音楽」だけではなく、料理・客層・滞在時間・お店の世界観との相性も一度考えてみてください。
BGMもまた、料理や内装、照明と同じように、お客様がお店をどう感じるかをつくる要素の一つです。
参考にした主な研究
- Zellner et al. (2017) Ethnic congruence of music and food affects food selection but not liking
- Szakál et al. (2023) How do ethnically congruent music and meal drive food choices?
- Spence et al. (2021) Commercializing Sonic Seasoning in Multisensory Offline Experiential Events and Online Applications
- Motoki et al. (2022) Is classical music sweeter than jazz?
- Wang et al. (2020) Onset timing moderates the crossmodal influence of background sound on taste perception
- Mathiesen et al. (2020) Music to eat by
- Migliavada et al. (2024) Chew that beat! How music tempo influences eating behaviours
- Background music tempo effects on food evaluations and purchase intentions
