和食店のBGMというと、
「和食だから琴や三味線を流せばいい」
と考えたくなります。
しかし、料亭や割烹、会席料理店などを考えると、必ずしもそうではありません。
こうした和食店では、料理そのものだけでなく、
- 器
- 盛り付け
- 季節のしつらえ
- 接客
- お客様同士の会話
- 店内の静けさ
まで含めて、一つの食事体験がつくられています。
そのためStore Soundでは、和食店のBGMは、
「日本らしい音楽を流す」ことより、料理・会話・空間の邪魔をしないこと
から考えるのがよいと思っています。
特に料亭・割烹・会席料理のような比較的高単価の和食店では、BGMを目立たせることよりも、
店がすでに持っている世界観を崩さないこと
の方が重要になる場合があります。
この記事でいう「和食店」とは
Store Soundでは、寿司店は和食とは別の業態として扱っています。
この記事で想定しているのは、主に、
- 料亭
- 割烹
- 会席料理店
- 日本料理店
- 小料理店
- 落ち着いた和食ダイニング
などです。
寿司店はカウンター越しの職人との距離や、握る音、会話、提供テンポなど、食事体験そのものがかなり異なります。
そのため寿司店のBGMについては、別の記事で考えます。
和食は料理だけでなく「季節や空間」まで含めた文化
和食の特徴を考えるうえで参考になるのが、農林水産省による「和食」の説明です。
2013年にユネスコ無形文化遺産へ登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」は、単に日本料理のレシピを指すものではありません。
農林水産省は和食の特徴として、
- 多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重
- 健康的な食生活を支える栄養バランス
- 自然の美しさや季節の移ろいの表現
- 年中行事との密接な関わり
を挙げています。特に、季節の花や葉、器や調度品まで使って季節感を表現することが和食の特徴だと説明されています。 (maff.go.jp)
つまり、和食店では料理だけを提供しているわけではありません。
料理の色。
器。
庭。
掛け軸。
花。
照明。
接客。
そこに流れる音。
こうした要素が一つの空間をつくります。
だからこそ、BGMだけが周囲から浮いてしまうと、店全体の世界観を壊すことがあります。
料亭や割烹でJ-POPが使いにくいのは「和食だから」だけではない
料亭や割烹で、最新のJ-POPが大きく流れている場面はあまり想像しにくいでしょう。
ただ、これは単純に、
「和食とJ-POPは合わない」
という話ではありません。
こうした店舗では、
- 接待
- 会食
- 記念日
- 顔合わせ
- 大切な人との食事
など、料理を食べる以外の目的で利用されることがあります。
その時間では、音楽そのものを楽しむより、
料理を味わうことや、同席する人との会話
が中心になります。
有名な歌詞が聞こえてくれば、意識が音楽へ向くことがあります。
「あ、この曲知ってる」
ということ自体は悪くありません。
しかし、会食の背景として考えるなら、音楽が前へ出ない方がよい店舗もあります。
高単価の和食店ほど、
何を流すかより、何を邪魔しないか
という考え方が重要になってきます。
飲食店ではBGMが料理の印象に関係する可能性がある
音楽と食事の関係については、さまざまな研究があります。
2014年に『Appetite』で発表された研究では、クラシック、ジャズ、ヒップホップ、ロックという異なるジャンルのBGMを聞きながら食品を評価したところ、BGMのジャンルによって食品の好ましさや全体的な印象が変化する場合があることが報告されています。 (pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
2021年の別の研究でも、ジャズやクラシック、ロック/メタル、ヒップホップを比較し、音楽ジャンルと食品の種類との組み合わせによって食の好みが変化したと報告されています。 (sciencedirect.com)
ただし、
「和食にはジャズを流せば料理がおいしくなる」
という話ではありません。
研究結果は食品や実験条件によって変わります。
むしろ重要なのは、
食事は味覚だけで評価されているわけではなく、周囲の音も食体験を構成する可能性がある
ということです。
料理にこだわる和食店だからこそ、BGMも「とりあえず何か流すもの」として扱わない方がよいでしょう。
「料理と音楽が合っているか」も重要
音楽のジャンルそのものより、料理や空間との整合性が重要になる可能性もあります。
音楽と食の文化的な一致を調べた研究では、特定地域を連想させる音楽によって、同じ文化圏に関連する食品が選ばれやすくなる現象が報告されています。 (sciencedirect.com)
また、高級レストランで行われた研究でも、異なる背景音楽によって食事中の感情や行動に違いが見られています。 (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
これらも日本の料亭を直接調べた研究ではありません。
しかし、
料理とまったく関係のない音を流すより、店全体の文脈に合う音を選ぶ
という考え方には参考になります。
では、和食店では和楽器を流せばいい?
ここで、
「やっぱり和楽器が正解では?」
と思うかもしれません。
和楽器は和食店と非常に相性のよい選択肢です。
琴、尺八、三味線などの音色は、内装や料理と音楽の方向性を合わせやすいからです。
ただし、
和食店=和楽器
と固定する必要はありません。
たとえば、非常に静かで現代的な日本料理店なら、伝統的な和楽器が強く出ることで逆に演出感が強すぎることもあります。
反対に、海外客が多く、
「日本で和食を食べる体験」
そのものを楽しんでもらいたい店舗なら、和楽器は非常に分かりやすい空間演出になります。
和楽器を使うかどうかも、
どんな和食店なのか
から考える方が自然です。
海外からのお客様が多い和食店では「日本らしさ」を音で伝える方法もある
和食店では、海外からのお客様が多いかどうかによってもBGMの考え方が変わります。
日本で暮らしている人にとって、琴や尺八などの和楽器は必ずしも日常的な音楽ではありません。
一方、海外から日本を訪れたお客様にとっては、
料理・器・内装・接客と一緒に、日本らしい音を体験すること
そのものが来店価値になる場合があります。
たとえば、
- 日本庭園が見える料亭
- 古民家を使った日本料理店
- 会席料理を提供する観光地の店舗
- 訪日外国人のお客様が多い和食店
などでは、琴や尺八を取り入れたインストゥルメンタルを流すことで、店内の「日本らしさ」を分かりやすく伝える方法があります。
ここでも、
「外国人客には和楽器を流せばよい」
と決めつける必要はありません。
非常にモダンな日本料理店なら、伝統的な和楽器より和ジャズや静かなアンビエントの方が店舗の世界観に合うこともあります。
重要なのは、
「日本らしさをどの程度、どんな形で体験してもらいたいか」
です。
訪日客が多い店舗では、BGMを単なる背景音ではなく、料理以外からも日本らしさを伝える一つの接点として考える余地があります。
和ジャズという選択肢もある
伝統的な和楽器ほど「和」を前面に出したくない。
しかし、普通のジャズだけでは少し洋風に感じる。
そんな店舗では、和の要素を取り入れたジャズも選択肢になります。
たとえば、
- 現代的な割烹
- 和モダンな内装
- 日本酒を中心にした和食店
- 若い世代も入りやすい高単価店
などです。
和ジャズには、
日本らしさを残しながら、昔ながらの料亭とは違う現代的な印象をつくりやすい
という特徴があります。
Store Soundでも和ジャズを用意しているのは、このような店舗を想定しているためです。
高級な和食店では「静けさ」そのものも商品になる
料亭や割烹では、
BGMをしっかり聞かせる必要がない
こともあります。
料理を盛り付ける音。
器を置く音。
スタッフの小さな声。
庭から聞こえる音。
同席者との会話。
こうした音がすでに空間を構成しています。
特に個室中心の料亭では、BGMを大きく流すよりも、静かな空間そのものに価値がある場合があります。
だから、
和食店なら必ずBGMを流すべき
という結論ではありません。
むしろ高単価になるほど、
「どれくらい音を足すか」だけでなく、「どれくらい音を残すか」
という考え方が重要になります。
一方で、完全な無音が合わない店もある
すべての和食店が料亭のような完全個室ではありません。
複数のテーブルが並ぶ日本料理店や和食ダイニングでは、
- 隣のテーブルの会話
- スタッフの声
- 食器の音
- 厨房の音
- レジや入口の音
などが聞こえます。
完全な無音では、こうした音が逆に目立つことがあります。
その場合は、小さくBGMを流すことで、
店舗全体に一定の音の背景をつくる
ことができます。
飲食店を対象とした研究では、BGMのテンポと滞在時間の関係が調べられており、ゆっくりした音楽の条件で滞在時間が長くなったとする報告もあります。 (pmc.ncbi.nlm.nih.gov)
ただし、料亭や割烹で「回転率を上げるために速いBGMを流そう」という使い方は、店舗の目的とは合わないでしょう。
和食店では研究結果をそのままテクニックとして使うのではなく、店が提供したい食事の速度や時間感覚とBGMが合っているかを見る方が重要です。
季節の料理なら、音楽にも季節感を入れる?
農林水産省が和食の特徴として挙げているものの一つが、季節の移ろいを食事の場で表現することです。 (maff.go.jp)
会席料理では、
春なら山菜。
夏なら涼しさを感じる器。
秋ならきのこや紅葉。
冬なら温かい料理。
というように、料理や器で季節を表現します。
BGMも必ず季節ごとに変える必要はありません。
ただ、
料理・しつらえ・音まで同じ方向を向かせる
という考え方はできます。
春なら軽やかな和楽器。
冬なら落ち着いたピアノや和ジャズ。
正月など特別な時期だけ和楽器の存在感を少し強める。
このように、BGMも固定されたプレイリストではなく、季節を構成する要素の一つとして考える方法があります。
会食で使われる和食店では「会話を邪魔しない」が重要
料亭や割烹では、料理そのものだけでなく、
誰と食事をするか
も重要です。
商談。
接待。
家族の顔合わせ。
祝いの席。
大切な人との食事。
こうした場では、BGMが会話を奪う必要はありません。
そのため、
- 歌詞が強く入ってこない
- 音量差が大きくない
- テンポが激しく変わらない
- 音楽そのものを意識させすぎない
というインストゥルメンタルは使いやすくなります。
ここは美容院とはかなり違います。
若い顧客とスタッフの共通話題として流行曲が機能する美容院もありますが、料亭では、音楽が会話の話題になる必要自体がないことも多いからです。
和食店で使いやすいBGM
和楽器
琴や尺八などを使ったインストは、日本らしい空間を明確に演出したい店舗と相性があります。
特に訪日客が多い店舗では、料理や内装だけでなく音からも日本らしさを伝えたい場合に使いやすいでしょう。
和ジャズ
伝統的すぎず、現代的な和の空間をつくりたい店舗に向いています。
和モダンの内装や日本酒を中心に扱う店舗などとも合わせやすい音楽です。
ジャズ
高級感を持たせながら、和の演出を強く出しすぎたくない場合に選択肢になります。
ただし洋風になりすぎないよう、内装や料理との相性を見る必要があります。
ヒーリングピアノ
静かな個室や会話を重視する店舗では、音楽を目立たせず空間を埋める用途で使いやすいでしょう。
無音に近い音環境
庭や店内の自然な音が十分にあり、静けさそのものに価値がある料亭では、BGMをほとんど使わないという選択もあります。
Store Soundが合いやすい和食店
Store Soundは、インストゥルメンタル中心の店舗向けBGMサービスです。
そのため、
- J-POPなど有名曲を必要としていない
- 会話を邪魔したくない
- 店舗の落ち着いた雰囲気を維持したい
- 和楽器や和ジャズを流したい
- 訪日客へ日本らしい雰囲気を伝えたい
- 音楽そのものを主役にしたくない
- BGM選びに時間をかけたくない
- 店舗利用できる音楽を簡単に使いたい
といった和食店では使いやすい選択肢になります。
特に、
「何でもいいから音楽を流したい」という店より、「店の雰囲気を壊さない音がほしい」という和食店
との相性がよいサービスです。
一方で、有名な演歌やJ-POP、特定のアーティストの曲を店舗演出として使いたい場合には向いていません。
その場合は、それらの楽曲を店舗で利用できるサービスを選ぶ方がよいでしょう。
和食店のBGMは「日本らしい曲」ではなく「店の格を崩さない音」で考える
和食店のBGMを考えると、
「和食だから和楽器」
という答えになりがちです。
しかし、料亭や割烹、会席料理店では、それだけでは十分ではありません。
和食は、料理だけで成立しているものではありません。
季節の食材。
器。
花。
しつらえ。
接客。
同席する人との会話。
静けさ。
そうしたものが重なって、一つの食事体験になります。
だからStore Soundでは、和食店のBGMは、
「どんな音楽が和食っぽいか」
ではなく、
「この料理、この空間、この時間を邪魔しない音は何か」
から考えるのがよいと思っています。
国内の会食客が中心で、料理や会話を主役にしたいなら、静かなインストや場合によっては無音に近い環境。
海外からのお客様に「日本で和食を食べる体験」をより分かりやすく感じてもらいたいなら、和楽器。
現代的な割烹や和モダンな店舗なら、和ジャズ。
同じ和食でも、誰に、どんな時間を提供する店なのかによってBGMの役割は変わります。
高単価の和食店では、
音楽で店を目立たせることより、料理や会話が主役であり続けられる音環境をつくること。
それが、和食店のBGM選びでは重要ではないでしょうか。
飲食店全体における音楽と味覚・料理選び・店舗体験の関係については、「飲食店と音楽の関係」の記事でも詳しく紹介しています。
