オフィスで流れているBGM。
「無音だと少し気まずい」
「仕事中に音楽があった方が落ち着く」
「なんとなく職場の雰囲気がよくなる」
そんな理由で、オフィスに音楽を流している会社もあります。
一方で、オフィスのBGMには店舗とは少し違った難しさがあります。
それが、そこで働く人によって好きな音楽が違うことです。
実際、Store Soundを導入していただいたウェブ制作会社の方から、
「今のオフィスでBGM問題で、専務と揉めていた」
という話を聞いたことがあります。
詳しく聞いてみると、問題になっていたのは音量ではありませんでした。
流す音楽の好みです。
また、オフィスによっては従業員のためだけにBGMを流しているとは限りません。
SaaSやIT企業などでは、オフィス内にショールームやデモスペース、商談スペースを設けているケースもあります。
そうした場所では、BGMは仕事中の音環境だけでなく、来客時の空間づくりや、周囲の会話音を目立ちにくくするための音環境づくりにも関わってきます。
この記事では、実際にStore Soundをオフィスで利用している方から聞いた話と、音楽と集中・認知パフォーマンスに関する研究をもとに、オフィスとBGMの関係について考えてみます。
オフィスでは「何を流すか」で揉めることがある
Store Soundを開発した際、知人が働くウェブ制作会社で実際に使ってもらいました。
その方から聞いたのが、
「今のオフィスでBGM問題で、専務と揉めていた」
という話です。
何が問題だったのか聞いてみると、
「好みの曲が違う」
「プロレスの入場曲を流すなと言われる」
「アニソンはダメと言われる」
といった、かなりリアルな内容でした。
これは少し極端な例に見えるかもしれません。
しかし、オフィスBGMを考えるうえでは分かりやすい話でもあります。
イヤホンで音楽を聴くのであれば、自分が好きな曲を自由に選べます。
しかしオフィスでは、経営者、営業、デザイナー、エンジニア、事務スタッフなど、音楽の好みが異なる人たちが同じ空間で仕事をしています。
誰かにとって最高の一曲が、別の人にとっては仕事中に聞きたくない一曲になることもあります。
オフィスBGMは、「自分が何を聴きたいか」だけでは決められない音楽です。
「好きな音楽」と「仕事中に向いている音楽」は同じではない
この方とのやり取りでもう一つ印象的だったのが、メタルについての話です。
筆者自身、以前勤めていたウェブ関連の会社ではメタルが流れていたことがあり、その話をしたところ、
「自分もメタルは聴くけど、気持ちが持っていかれるので作業用にはならない」
という答えが返ってきました。
これもオフィスBGMを考えるうえで重要な視点だと思います。
好きな音楽だから、仕事にも向いているとは限りません。
むしろ好きな曲だからこそ、
「この曲好きだ」
「ここからサビだ」
「このドラムいいな」
と、音楽の方に意識が向いてしまうこともあります。
店舗BGMと同じように、オフィスBGMにも主役になりすぎないことが求められる場合があります。
歌詞のある音楽は仕事を邪魔することがある?
音楽と集中の関係については、さまざまな研究が行われています。
Shihらの研究では、歌詞のあるBGMと歌詞のないBGMなどの条件で注意課題への影響を調べた結果、歌詞のあるBGMでは注意パフォーマンスに悪影響が見られました。
出典:Shih et al. (2012) “Background music: effects on attention performance”
また、SouzaとBarbosaの2023年の研究では、無音、インストゥルメンタル音楽、歌詞付き音楽などの条件で、記憶・読解・計算といった認知課題への影響が比較されています。
その結果、歌詞付き音楽では言語記憶、視覚記憶、読解などが妨げられる結果が見られた一方、インストゥルメンタル音楽については明確な改善・悪化は確認されませんでした。
だからといって、
「オフィスでインストを流せば仕事の効率が上がる」
とまでは言えません。
ただ、文章を読む、メールを書く、資料を作る、プログラムを書くといった仕事では、歌詞が注意を奪う可能性について考えておく意味はありそうです。
BGMは「流せば集中できる」というほど単純でもない
一方で、音楽と仕事の関係について、すべての研究で同じ結果が出ているわけではありません。
KissとLinnellの研究では、本人が好むBGMを流しながら比較的負荷の低い持続的注意課題を行った場合、課題に集中している状態が増えたと報告されています。
ただし、これは「好きな音楽なら仕事全般の能率が上がる」という意味ではありません。
対象となった課題や、音楽の種類、個人差によって結果は変わります。
GoltzとSadakataの研究でも、勉強や認知作業をするときに人々がどのように音楽を利用しているかが調べられており、BGMの影響は単純ではないことが示されています。
そのため、
「BGMがある会社の方が生産性が高い」
「クラシックを流せば集中力が上がる」
「インストなら絶対に仕事を邪魔しない」
と単純に考えるべきではありません。
仕事内容も違えば、人によって音楽への反応も違います。
オフィスBGMで重要なのは、集中力を高める“魔法の音楽”を探すことではなく、そこで働く人たちにとって邪魔になりにくい音環境を考えることではないでしょうか。
オフィスBGMは「誰か一人のプレイリスト」にしない
店舗の場合、BGMはお客様に向けた空間づくりの一部として考えられることが多いでしょう。
しかしオフィスでは、毎日そこで働く人たち自身が長時間BGMを聞き続けます。
そのため、
「社長が好きだから」
「音楽担当者が好きだから」
「今日はこの曲を聴きたいから」
という理由だけで選曲すると、他のスタッフには合わない可能性があります。
先ほどのウェブ制作会社の話も、まさにこの問題です。
プロレスの入場曲が好きな人もいる。
アニソンが好きな人もいる。
メタルが好きな人もいる。
しかし、それを全員が働く空間で流すべきかは別の問題です。
オフィスBGMでは、
「みんなが好きな曲」を探すより、「誰か一人の好みに寄りすぎない音楽」を選ぶ。
そんな考え方もあります。
オフィスBGMは来客用として使われることもある
オフィスBGMを考えるとき、もう一つ忘れてはいけないのが来客です。
すべてのオフィスが、従業員だけで完結する空間ではありません。
SaaSやIT企業などでは、オフィス内に
- ショールーム
- 製品のデモスペース
- 商談スペース
- ミーティングルーム
- エントランス
- 待合スペース
などを設けていることがあります。
こうした会社では、お客様や取引先がオフィスを訪れる機会もあります。
その場合、BGMは従業員の作業環境としてだけでなく、会社を訪れた人が過ごす空間の一部にもなります。
例えば、ショールームで製品を見てもらうとき。
商談相手に少し待ってもらうとき。
エントランスから会議室へ案内するとき。
完全な無音よりも、空間に合ったBGMが流れている方が自然に感じられるケースもあります。
一方で、ここでも個人の好みが強すぎる音楽は使いにくいことがあります。
社内では盛り上がる音楽でも、お客様にとっては会社の雰囲気と合わないかもしれません。
つまり、来客のあるオフィスでは、
「社員がどう感じるか」だけでなく、「お客様からどう聞こえるか」
という視点も必要になります。
これは飲食店や美容院、小売店などの店舗BGMとかなり近い考え方です。
オフィスBGMは会話音を目立ちにくくする目的でも使われる
ショールームや商談スペースのあるオフィスでは、複数の部屋が並んでいることがあります。
また、オフィスの間仕切りを天井まで完全に塞ぐと、その区画に応じて火災感知器やスプリンクラーなどの消防設備の追加・移設が必要になる場合があります。
そのため、天井との間に開口を残した「欄間オープン」の間仕切りが採用されることもあります。
もちろん、必要な消防設備や区画の扱いは建物の条件や用途によって異なります。
ただ、こうした欄間オープンの空間では、見た目は個室でも完全に音が遮断されるわけではありません。
隣の商談室の声や、スタッフ同士の会話が周囲に聞こえやすくなることがあります。
そこでBGMを流しておくことで、完全な無音状態を避け、周囲の会話音が必要以上に目立つのを和らげるという使い方もあります。
特に、
- ショールーム
- 商談スペース
- ミーティングルーム
- 待合スペース
- 来客用ラウンジ
など、複数の人が同時に会話するオフィスでは、BGMが空間の雰囲気づくりだけでなく、音環境を整える役割を持つこともあります。
ただし、専用のサウンドマスキング設備とBGMは別物です。
BGMだけで会話を完全に聞こえなくできるわけではありません。
それでも、無音のオフィスと比べれば、周囲の会話だけが際立って聞こえる状態を和らげるための一つの方法にはなります。
実際にウェブ制作会社で一日Store Soundを使ってもらった
今回紹介したウェブ制作会社では、実際にStore Soundを一日オフィスで利用していただきました。
その後、
「概ね良好に使っている」
という感想をいただいた一方で、
「曲のつなぎ目がクロスフェードでもっとスムーズになると良い」
「時々、曲がブツっと切れて次の曲に変わるところがあった」
という具体的な改善要望もいただきました。
実際に一日仕事をしながら流し続けてもらったからこそ出てきた意見です。
店舗やオフィスで使うBGMは、一曲だけ聴いて良し悪しを判断するものではありません。
何時間も流れ続けます。
そのため、
- 曲そのもの
- 曲と曲のつながり
- 音量
- 曲調の変化
- 長時間聞いたときの疲れにくさ
まで含めて考える必要があります。
こうした実際の利用者からの意見は、Store Soundを改善していくうえでも大切にしています。
※現在、曲間の再生については改善を行っています。
オフィスによって必要なBGMは違う
一口にオフィスと言っても、働き方はさまざまです。
例えば、
- 営業スタッフの会話が多いオフィス
- エンジニアが集中して作業するオフィス
- デザイナーやクリエイターが多いオフィス
- 来客が多いオフィス
- ショールームのあるオフィス
- 複数の商談室が並ぶオフィス
- コールセンター
- コワーキングスペース
- 小規模な事務所
では、音楽に求める役割も違います。
電話が多い職場なら、音楽が会話を邪魔しないことが重要かもしれません。
一人で集中する時間が長い職場なら、歌詞や音楽の主張が強すぎないことを重視するかもしれません。
来客や商談が多いオフィスなら、働く人だけではなく、お客様がその空間をどう感じるかも考える必要があります。
また、複数の商談室やミーティングスペースが並んでいるなら、周囲の会話音が目立ちすぎないような音環境も意識する必要があります。
だから、
「オフィスにおすすめのBGMは何ですか?」
という質問だけでは、本当は情報が足りません。
考えたいのは、
「どんな仕事をしているオフィスなのか?」
そして、
「その音楽を誰が聞くのか?」
です。
オフィスでBGMを選ぶときに考えたいこと
オフィスのBGMを選ぶ際には、例えば以下のような点を考えると分かりやすくなります。
- どんな仕事をしているか
- 読む・書く仕事が多いか
- 会話や電話が多いか
- スタッフの人数
- スタッフの年齢層
- 来客の有無
- ショールームや商談スペースがあるか
- 周囲の会話音が気になりやすいか
- 音楽を流す時間
- 音量
- ボーカルの有無
- テンポ
- 特定の人の好みに寄りすぎていないか
特に重要なのは、「その曲が好きか」だけで判断しないことです。
オフィスでは一人ではなく、複数の人が同じ音を長時間聞きます。
さらに、来客のある会社では社外の人が聞くこともあります。
好きな音楽を選ぶことと、働く場所・人を迎える場所の音環境をつくることは別の話です。
Store Soundではオフィス向けの専用チャンネルを用意しています
Store Soundは、美容院やサロン、飲食店、クリニック、小売店など、店舗や施設で利用できるBGMアプリです。
オフィス向けにも専用チャンネルを用意しており、仕事中や来客時に流しやすいインストゥルメンタルを中心に選曲しています。
Store Soundは、最新のJ-POPやアニメソングなどを大量に聴くための音楽サービスではありません。
そのため、
「社員みんなで最新のヒット曲を楽しみたい」
「流行の曲を社内コミュニケーションのきっかけにしたい」
という会社であれば、別の音楽サービスの方が向いている場合もあります。
一方で、
「誰か一人の趣味に偏らないBGMを流したい」
「歌詞が強く主張しない音楽を流したい」
「仕事や会話の背景として音楽を流したい」
「ショールームや商談スペースでも使いたい」
「無音で周囲の会話だけが目立つ状態を和らげたい」
というオフィスであれば、Store Soundも一つの選択肢です。
実際に今回紹介したウェブ制作会社でも、社内でのBGMの好みをめぐる問題があったことをきっかけに、Store Soundを利用していただきました。
オフィスのBGMに絶対的な正解はありません。
重要なのは、
「その空間で、音楽がどんな役割を持ってほしいのか」
を考えることです。
仕事への集中を邪魔しないためなのか。
無音になりすぎないためなのか。
来客時の空間を整えるためなのか。
ショールームや商談スペースの雰囲気をつくるためなのか。
周囲の会話音が際立ちすぎないようにするためなのか。
スタッフが心地よく働くためなのか。
その目的によって、選ぶべき音楽も変わります。
オフィスBGMもまた、デスクや照明、椅子、レイアウトと同じように、働く環境や人を迎える空間をつくる要素の一つです。
参考にした主な研究
- Shih et al. (2012) “Background music: effects on attention performance”
- Souza & Barbosa (2023) “Should We Turn off the Music? Music with Lyrics Interferes with Cognitive Tasks”
- Kiss & Linnell (2021) “The effect of preferred background music on task-focus in sustained attention”
- Goltz & Sadakata (2021) “Do you listen to music while studying? A portrait of how people use music to optimize their cognitive performance”
