クリニックと音楽の関係|待合室のBGMは不安やストレスに影響する?研究から解説

クリニックの待合室では、ピアノやオルゴール、クラシックなどのBGMが流れていることがあります。

なんとなく「病院だから落ち着いた音楽を」というイメージで選ばれていることも多いかもしれません。

しかし、医療施設における音楽については、実際にさまざまな研究が行われています。

特に注目されているのが、診察や処置を待っている患者の不安と音楽の関係です。

クリニックを訪れる人は、必ずしもリラックスした状態で来院するわけではありません。

「どんな診断をされるのだろう」

「治療は痛くないだろうか」

「検査結果は大丈夫だろうか」

そんな不安を抱えながら待合室で過ごす人もいます。

では、その空間で流れるBGMにはどのような意味があるのでしょうか。

この記事では、クリニックや医療施設における音楽について、実際の研究をもとに考えてみます。

目次

待合室の音楽について調べた研究がある

2022年に発表されたレビュー論文
Music in Waiting Rooms: A Literature Review
では、医療施設の待合室で流れる音楽について、過去の研究がまとめられています。

診療所の待合室や手術前の待機スペースなど、さまざまな医療環境を対象とした研究を整理した結果、患者が待合室の音楽を好意的に受け止めた研究が多く、一部では不安の軽減も確認されていました。

一方ですべての研究で同じ効果が確認されたわけではありません。

研究ごとに、

  • 医療環境
  • 患者の状態
  • 使用する音楽
  • 音量
  • 音楽を聴く時間
  • 不安の測定方法

などが異なるため、「待合室で音楽を流せば必ず不安が減る」とまでは言えないのが現在のところです。

これはクリニックでBGMを考えるうえで大切なポイントです。

BGMは医療行為の代わりになるものではありません。

それでも、患者が診察を待つ環境をつくる要素の一つとして、音楽を考える意味はありそうです。

歯科では「音楽を聴いて待つ」ことで不安が低下した研究も

クリニックの中でも、音楽と不安の関係がよく研究されている分野の一つが歯科です。

2014年に発表された研究
Effects of Music Listening on Pre-treatment Anxiety and Stress Levels in a Dental Hygiene Recall Population
では、歯科衛生処置を受ける前の患者を対象に、音楽を聴いた場合と静かに待った場合が比較されました。

その結果、音楽を聴いていたグループでは、待っている間の不安がより大きく低下しました。

歯科医院は、

「痛そう」

「音が怖い」

「治療が苦手」

といった不安を持つ人も少なくない場所です。

そうした場所では、受付から診療までの時間も患者体験の一部です。

治療そのものだけではなく、治療を待つ時間をどのような空間にするのかという視点も大切になります。

ただし「音楽なら何でもいい」わけではない

一方で、音楽を流しても不安の軽減が確認されなかった研究もあります。

2022年に発表された歯科外来での研究
The Effect of Music on Preoperative Anxiety in an Operating Room of a Dental Hospital
では、歯科治療に強い恐怖を持つ患者を対象に調査しましたが、音楽による明確な不安軽減効果は確認されませんでした。

つまり、

「クラシックを流しておけば患者はリラックスする」

と単純に考えることはできません。

患者が感じている不安の大きさや、これから受ける治療、本人の音楽の好みなどによっても結果は変わる可能性があります。

待合室のBGMを考えるときには、「リラックスできそうなジャンルを選ぶ」だけではなく、そのクリニックを訪れる患者がどのような状況にいるのかまで考える必要があります。

音楽だけでなく「待合室全体」を考える

クリニックの印象を決めるのは音楽だけではありません。

照明、椅子、壁の色、植物、香り、テレビ、掲示物。

患者はさまざまな情報を受け取りながら待っています。

2014年には、形成外科の待合室で音楽と香りが患者の不安にどのように影響するかを調べた研究も行われています。

The influence of ambient scent and music on patients’ anxiety in a waiting room of a plastic surgeon

また、化学療法を初めて受ける患者を対象とした研究では、絵画や人工植物、音楽を取り入れた待合環境で、不安の軽減が報告されています。

The influence of visual objects and music on anxiety levels of breast cancer patients scheduled to receive chemotherapy

ここから考えられるのは、BGMだけを独立して考えるのではなく、

「患者にどんな待ち時間を過ごしてほしいのか」

から待合室全体を設計するという考え方です。

内装が落ち着いているのにBGMだけが派手だったり、静かなクリニックで音楽だけが大きく聞こえたりすれば、空間としての統一感は失われます。

音楽も、照明や内装と同じように待合室の環境を構成する要素の一つとして考えた方が自然です。

手術前の不安と音楽についても研究されている

医療分野では、待合室だけでなく手術前の患者と音楽についても多くの研究があります。

2008年に発表されたレビューでは、周術期の患者を対象とした42件のランダム化比較試験が検討され、約半数の研究で音楽介入による不安や痛みへの好ましい影響が報告されました。

一方で、研究によって結果には差があり、音楽が常に同じ効果をもたらすわけではないことも示されています。

The anxiety- and pain-reducing effects of music interventions: a systematic review

また、デイサージェリーの患者を対象としたランダム化比較試験でも、手術前の音楽介入と不安について検討されています。

Minimising preoperative anxiety with music for day surgery patients

こうした研究も含めると、医療環境における音楽は単なる装飾ではなく、長年研究されてきたテーマであることが分かります。

「音楽療法」と「待合室BGM」は同じではない

ここで注意したいのが、音楽療法と施設で流すBGMを混同しないことです。

医療分野の研究には、専門的な音楽療法や、患者に特定の方法で音楽を聴かせる「音楽介入」を対象としたものも多くあります。

これは、クリニックのスピーカーから日常的に流れているBGMとは条件が異なります。

そのため、

「音楽療法で○○という効果がある」

という研究結果をそのまま、

「待合室でBGMを流せば同じ効果がある」

と置き換えることはできません。

実際、待合室BGMに限定した文献レビューでも、効果については研究によってばらつきがあります。

それでも、待合室で過ごす患者の環境を考えるうえで、音楽が研究対象になっていること自体は興味深い事実です。

クリニックのBGMは「診療科」だけでは決められない

クリニックのBGMというと、

「病院だからピアノ」

「歯医者だからオルゴール」

といった選び方になりがちです。

しかし、同じ医療施設でも患者の状況は大きく異なります。

例えば、

  • 内科
  • 歯科
  • 小児科
  • 眼科
  • 皮膚科
  • 整形外科
  • 婦人科
  • 美容クリニック

では、来院する患者の年齢も、滞在時間も、診察前に抱える感情も異なります。

さらに同じ歯科でも、子どもが多い歯科医院と、大人向けの審美歯科では、つくりたい空間は違うでしょう。

だからこそ、

「クリニックに合う音楽は何か」ではなく、「このクリニックに合う音楽は何か」

を考える必要があります。

クリニックのBGMを選ぶときに考えたいこと

研究結果から特定のジャンルを「これが正解」と決めることはできません。

そのうえで実際の待合室では、

  • 患者の年齢
  • 診療科
  • 待ち時間
  • 内装や照明
  • クリニックのコンセプト
  • 音楽のテンポ
  • 音量
  • ボーカルの有無

などを考えながらBGMを選ぶのが現実的です。

例えば、落ち着いた内装のクリニックであれば、音数の少ないピアノなどが空間になじみやすいかもしれません。

一方、小児科では「静かで高級感のある空間」を目指す必要があるとは限りません。

美容クリニックなら、医療施設としての安心感だけでなく、美容サロンに近い洗練された雰囲気を求める場合もあります。

重要なのは、ジャンル名から決めるのではなく、患者にどんな空間だと感じてほしいのかから逆算することです。

無音よりBGM、ではなく「どんな空間にするか」

今回紹介した研究を見ると、医療施設で音楽を利用することについて、患者の不安を軽減する可能性を示した研究があります。

一方で、明確な効果が確認されなかった研究もあります。

そのため、

「クリニックではBGMを流した方がいい」

と一律に結論づけることはできません。

しかし、患者が診察を待つ時間もクリニックで過ごす時間の一部です。

診察室だけでなく、

入口を入ってから、受付を済ませ、名前を呼ばれるまでをどんな環境にするのか。

そこまで含めてクリニックの体験を考えるのであれば、BGMも検討する価値のある要素の一つです。

Store Soundなら医療・施術施設の雰囲気に合わせてBGMを選べます

Store Soundは、店舗や施設で利用することを想定したBGMアプリです。

医療・施術施設向けには、業態ごとに専用チャンネルを用意しています。下記がその専用チャンネルです。

対応業種
クリニック
「クリニックのBGMは何を流す?待合室の不安・会話・固定費から考える音楽の選び方」
調剤薬局
「調剤薬局のBGMは何を流す?待ち時間・子ども・会話から考える音楽の選び方」
動物病院
「動物病院のBGMは何を流す?犬・猫のストレスと飼い主の待ち時間から考える音楽の選び方」
整骨院・接骨院
「整骨院・接骨院のBGMは何を流す?施術中の会話・痛み・複数ベッドから考える音楽の選び方」

また、業種からだけでなく音楽ジャンルから選ぶこともでき、「オルゴール」や「ヒーリングピアノ」といった、落ち着いた空間づくりに使いやすいジャンルも用意しています。

ただし、この記事で紹介した研究からも分かるように、「クリニックならこの音楽が正解」というものではありません。

同じ医療・施術施設でも、患者や利用者の年齢、診療内容、待ち時間、内装、目指している雰囲気によって適したBGMは変わります。

例えば、静かで落ち着いた待合室であればヒーリングピアノ、やわらかな印象の空間をつくりたい場合にはオルゴールなど、施設の雰囲気に合わせて音楽を選ぶという考え方もできます。

「病院だからとりあえずクラシック」ではなく、

この施設を訪れた人に、どんな空間だと感じてほしいのか。

そこからBGMを考えてみてください。

BGMもまた、照明や内装、受付での接遇と同じように、患者や利用者が施設で過ごす時間を構成する要素の一つです。

参考にした主な研究

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